おりすじ

「人間と折り紙」 笠原邦彦


 ロバート・ラングさんの来日の折、映画「ブレード・ランナー」が話題になりましたが、この映画にでてくる「鳥」「人の姿」そして「ユニコーン」の3点の折り紙を作ったのは誰か?は、不明でした。それがひょんなことで明かとなりました。高尾京子さんと井上文雄氏が日本に招待された、スペインの折り紙愛好家のラモン・ジメネス・ペレスさんと横浜でお会いしたときに、彼が「ミック・ガイさんですよ」と教えてくれたからです。私はまだミック・ガイさんとはお会いしたことも文通したこともありませんが、とにかくこれでホッとした思いです。ところで偶然とは面白いもので、実はこのラモンさんとお会いするとき、私はこの映画の原作となったフィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢をみるか?」の文庫本を読んでいる途中とて所持していました。そのことを彼ラモンさんに言いましたら、彼もそのスペイン語訳の本を持っているとのことでした。面白い偶然の連続にここにちょっと記してみたくなりました。 まず、この映画はその原作と共に見事な傑作だと思います。ここで扱われているテーマは、「人造人間と人間性」ということだろうと思うのですが、それ痛いくらいに心をうつのでした。さてそこで、この小説と折り紙の関わり合いですが、これはあくまでも映画にのみ出てくるもので、おそらくこの映画のリドリー・スコットのアイデアだろうと思います。と同時に、映画の中で折り紙を折る男は小説の方では出てきません。しかし、映画でこの男を入れ、そして彼に折り紙を折らせたということは実に見事な表現で、このことによりこの男が「人間」であることを示しているわけです。このことから思うのですが、やはり折り紙とは人間ならではの手芸遊びで、コンピューターとかその発展であるところの人造人間などには、「創作」は無理だろうというのが大方の思いなんだということです。昨今の著しい進歩を見るにコンピューターの作図能力で幾何図形の展開図作成、あるいは新しい基本形作りなどには大活用できるかも知れません。しかし、叙情的など造形というものについては、人間の感性にとって代わることは出来ないのではなかろうか?そんなふうに思うと、嬉しいような残念なような妙な気分になりました。
 それにしても、折り紙好きの中にSFファンが多いことは、これまた新たな喜びです。10月記  

KASAHARA 1993 02/25