おりすじ
「TVの国からキラキラ」 笹出晋司
テレビの放送現場にはキューシートというものがある。ひらたく言えば番組の進行表で、横方向は時間の流れ、縦方向は素材(スタジオとか中継とかVTRとか)が記入され、何時何分から何時何分までVTRを流すとかスタジオをとるとかを横線で引っぱり、これを見ると番組の進行が一目でわかるというものである。
キューシートを書くのはタイムキーパーの仕事である。スタジオの調整室で首から紐をつけたストップウォッチをぶらさげて「5秒前!」などと大声をはりあげている女性を見たことがあると思うが、彼女がタイムキーパーである。普通TKと略されて呼ばれている。
TKの仕事はその名のとおり番組進行の時間管理である。生放送などではほとんど段取りどおり番組は進行しないので帳尻あわせにいつも四苦八苦している。
「トッテダシ」と呼ばれる番組がある。これはおもにスポーツ中継で行われる手法で、中継で送られてきた番組素材をVTRで収録し、1時間とか2時間遅れでOAに流すものである。番組を枠内に納め、盛り上がるところを活かすためにTKは収録中に必死になって時間計算をしてキューシートを書き上げ、スタッフに渡す。この間OA時間は迫ってくるし、計算はあわないしパニック状態になるのが常である。
使用済みのキューシートは情け容赦なく捨てられる。未使用のものとゴッチャになるととんでもないことになるからである。トッテダシ番組の終了後は使用済みキューシートの山になる。使用済みと言っても一度コピー機を通っただけのピンピンの紙である。見やすさを重要視するから大きさもB4が普通であり折り紙の素材としては好条件である。これをどっさり拾ってきて恐竜とか動物とかを折っている技術スタッフがいた。アパトサウルスが完成したころやつれたTKが入ってきた。「私が手を真っ黒にして書いたのにー!」
彼女の目は怒りに燃えていた。
SASADE 1995 10/25