おりすじ
「私が名探偵になった理由」 和久敦也
人の人生の成り行きを「宿命」・「運命」・「使命」の三通りに分けるとすれば、人の縁(えにし)というのは「運命」の一部にでも属するのだろうか・・とかく縁とは本人がいかような者だろうが、時と場所さえあれば勝手に広がっているので、大いに驚かされる事すらある。実はここにこうして私が記述することによってある縁の輪の様なものがが完成する出来事があるので、今回はその話を少々・・・
ずいぶんと昔のことである、私が京都にある百貨店の手品売場でアルバイトをしていた頃・・・・そこにちょくちょく顔をのぞかせる御客の一人に後の推理作家・綾辻行人氏がいた。もっとも、「後の」と書いたようにその頃の私には比較的年令も近い、フォーク・ソングと手品と推理小説好きの気さくな人だったので、よく皆で喫茶店等に行き、覚えたての手品の見せ合いなどをやって遊んだ。
今でもそうであるが、私は決して手品や折紙が趣味という訳ではない。私に言わせれば手品と折紙には、他のものに無い特異的な共通点がありその中に私の趣味もあるのだが、ここの話は長くなるので割愛する。
ともかく、当時「ビバ!おりがみ」が発刊されたばかりという事もあり常に何かを折っていたような気がする。もちろんあの前川淳氏の「悪魔」も空で折れる様にして、いろいろな所で折っていた。もちろん後の綾辻氏の前でも折った・・・・
あれは綾辻氏の一作目「十角館の殺人」が出て、少したっての事である。綾辻氏がしばらくぶりに売場に現れた。
「いや、十角館の殺人面白かったですね〜、あんなのが書けるなんて・・やっぱりスゴイと思いますわ!」(実は、読んでいなかったのだが)
「いえ実はあの後、編集部の人からもっと探偵にインパクトを与えるように言われましてね・・」
「はあ・・・」
「だから探偵にもっと変な癖や趣味を持たせようと思ってるんですよ」
「はあはあ・・・」
「それで和久さんの事を思い出しましてね、折紙研究家にしたんです」
(ど〜ゆ〜こっちゃ〜!!)
この後完成した作品を読ませていただいたが・・・探偵が、私が折紙について綾辻氏に言ったのと同じセリフを話している場面があるのには、思わず一人でほくそ笑んでしまった。
WAKU 1994 10/15