おりすじ

「おりがみ術入門」 吉野一生


 私の折り紙人生の中で重要な出会いと言えば金杉登喜子さんとの出会いほどある意味で重要だったものはないかも知れない。なにしろ現在私の作品で使っているウエットフォールディング(湿らせ折り)、裏打ち(紙の張合せ)や大きな作品を作ってしまう癖などはこの時期までルーツを遡ることができるからである。当時私は高校生で、折り紙を再発見してから数年たっていた。いいかげん普通の折り紙で折るのに飽きていて、仕上げの作品は何か良い紙でと文房具店で模造紙やら、ラシャ紙やらをあさっていた。気に入った紙がなかなか見つからなかったのである。結局何度も足を運んだお陰で、変なにいちゃんがいると、文房具屋さんより金杉さんに紹介されることになった。金杉さんのお宅には毎月1回折り紙を教える先生が通ってきていて、私もそれに恐る恐る加わって教授をうけることにした。折り紙の先生ほど怪しいものはないものである。初めて見たウエットフォールディングでさっそくブッ飛んでしまった。ミューズコットンという模造紙より厚い紙にいきなり雑巾がけである。それも緩くしぼった雑巾で...とんでもぇことしやがる、と最初は思ったが、しばらく待って柔らかくなった紙にまたびっくり。この時から紙に対する考え方が270度くらいは変わったと思う。  厚い紙で折り始めると作品は段々大きくなるものである。1987年諸般の事情で(忘れたが)巨大恐竜を折る羽目になった。お題はティラノサウルスとトリケラトプスの名コンビ。紙は確か、3mと5m。こんな紙は紙屋でもない限り手に入らないので、もちろん張合せである。この時覚えたのが幅広セロテープでの紙の結合。単に紙を重ならないように並べて、セロテープで貼るだけだが、糊より効果は絶大。でき上がった紙も当然ウェットフォールディングなので、モップで床(紙)拭き...結局3mの紙は2m高のティラノサウルスに、5mの紙はたった1.5m長のトリケラトプスになった。
 結局こういう苦労が実ってウェットフォールディングなどが楽々できるようになって行った。ただし、裏打ちは苦労が足りなくて今でも下手であるが...

YOSHINO 1996 02/15