コンテスト応募にあたって

8月のコンベンションに向けて、コンテスト出品作品の制作は順調でしょうか? 今年もみなさんの情熱あふれる新作に出会えることを楽しみにしています。 
今回、コンテスト用作品の準備にあたって参考になる記事を、神谷哲史さんが寄稿してくれました。 

今からでも間に合う、制作から出品まで全工程を通して役立つ情報が満載です。ぜひご覧ください。(2017年8月公開)

はじめに

日本折紙学会では、毎年8月に行われる折紙探偵団コンベンションに合わせて、「JOAS創作折り紙コンテスト」を開催しています。 

毎年、新進気鋭の若手からベテランまで、多くの作家・愛好家の力作が出品されています。 

今回、支援記事として、私がコンテストに出品するという仮定のもとで、一つ試作をしてみました。コンテスト出品の切っ掛けや、参考になれば幸いです。

神谷哲史


傾向と対策

実際には出品しないとはいえ、コンテストである以上、積極的に入賞を狙っていきます。 そこでまずは、過去の受賞作品を参考にして、傾向と対策を考えてみます。 
過去の受賞作品などは、下記のURLでみる事ができます。

 https://origami.jp/contest/

受賞者をみてみると、豊村高志さんの強さが目立ちます。絶対的な造形力の高さに加えて、正方形1枚折りにこだわらない幅広い発想と作風が、強さの理由の一つでしょうか。「殿堂入り第1号」というのも納得の実力です。 

また、受賞・エントリー共に、若い作家の台頭が感じられます。新進作家にとっては、登竜門的な場にもなっているようです。 

作品の方をみると、視覚的なインパクトの強いコンプレックス系が目立ちます。特に干支部門では直球勝負の力作も多く、ハイレベルな激戦区となっています。 
特別テーマ部門は少し傾向が違って、エントリー作品を見てみると、題材の選び方やテーマの解釈に作家の個性が出やすいようです。そのため、テーマを上手く活かした作品や、総合的な完成度の高い作品が入賞しています。 

ちなみに第9回の干支部門が該当無しですが、これはエントリー作品が悪かったわけではありません。実際はむしろ逆で、ハイレベルな作品が多い粒ぞろいで票が割れてしまったのが原因です。全体のレベルが上がって実力が拮抗した結果起こった一種の珍事といえるでしょう。

以上、筆者の気がついた点をまとめると、

  • 視覚的なインパクトの強い作品が有利。
  • 正方形1枚折りにこだわる必要はなし。
  • テーマ部門については、題材等のアイディアをうまく作品に落とし込むのが重要。
  • 近年の干支部門は、高レベルの作品が多い激戦区。

となります。 

これらを念頭に置いた上で、どのような作品を作るべきかを考え、試作を進めていきます。


試作

実際に試作を行うにあたって、まずは作品の方向性と題材を考えてみます。 

出品する部門については、特別テーマ部門はアイディア自体が大きく影響するので、多くの人に対して広く参考になる記事ではなく特殊な題材だけに該当する話題になってしまったり、誰かがすでに考えていたアイディアを先に公表することになってしまったりするかもしれません。そこで今回は干支部門の「いぬ」を考えてみます。 

作品の方向性は、素直に「外見重視のコンプレックス作品」とします。理由は上記の「事前の影響に配慮する」という点と、単純にやりやすいからです。

という事で、まずは題材を考えます。見た目重視で迫力のあるものということで、造形密度を高くしやすそうな題材がよさそうです。(ネタ潰しになってしまったら申し訳ありません)

  • 「狛犬」 非常に魅力的ではあるけれど、本来モデルになっているのは獅子なので、干支とはすこしずれてしまう。
  • 「土佐犬」 化粧まわしも折る事で造形密度を稼ぐ。
  • 「ケルベロス」 多頭系。過去に創っているのでこれは無いかな。
  • 「ガルム、デスハウンド、ブラックハウンド」 神話等に登場する犬をモデルにする。デザインや作り方次第となりそう。

とりあえず候補はこのあたりで。この中だと土佐犬が魅力的で、なにより一番「折ってみたい」と感じます。 

念のため簡単に検索したところ、1枚折りで化粧まわしまで折っている作例はなさそうです。土佐犬に決定しましょう。

土佐犬の折り紙というと、昔コンベンションの宿で行った「即興折り紙創作によるしりとり」で尾川知さんが折った作品が、綱の部分をインサイドアウトで折り出す事で土佐犬らしさを表現していました。とても分かりやすく、視覚的にも有効な表現なので、今回の作品にも取り入れさせてもらいます。それにしても、20年近く前の即興しりとり作品が参考作品になるとは……。

構造・手法としては、化粧まわしを折り出しやすそうな蛇腹を採用します。色を変える綱の部分を一辺に配置、頭部は内部から折り出すのが良さそうです。体は荒めの等分数でカドを折り出しておいて、綱の部分のみ等分数を細かくします。ここは色分けと同時に出来るかな。

ここから先は実際に折って試作、数回の試行の結果、良さそうな試作品が出来ました。あまり整理は出来ていませんが、十分な迫力はあります。作り込んでちゃんとした紙を選んで折れば、それなりの出来になりそうです。


本折りについて

さて、実は現在進んでいるのはここまでで、これから出品申し込み締め切り(7/28)に合わせて、整理と本折りを進めていく事になります。

実際に展示される作品を制作するにあたって、ポイントとなりそうな点をまとめておきます。対策として重複する内容もあります。

使う用紙を吟味する

展示された作品は、「折り方」だけでなく、実際に折られた「紙」も見て評価されます。「作品に合った紙を使う」と言ってしまえばそれだけの話ですが、基本的な事だからこそ非常に重要な要素です。

視覚的なインパクトを重視して仕上げる

投票は、展示された作品を見比べて決められます。文章などによる説明で伝わる魅力も重要ではありますが、視覚的に凄さや魅力が分かりやすい作品が有利でしょう。必然的に、(良くも悪くも)複雑な作品が有利となるケースが多いと思います。 コンプレックス系でない作品の場合、そこをどうにかするのが腕の見せ所です。視覚的インパクトに作品単体の複雑さは必須ではありません。

可能な限り完成度を上げる

投票者はコンベンション参加者=ある程度以上の折り紙愛好家です。作品を見る目は肥えていて、作品の出来は見分けられる人が多いと思われます。特に近年は出品作品のレベルが上がっているので、最後に一歩深く踏み込めるかどうかが決定打になる可能性があります。なるべく作り込んで完成度を上げましょう。

サイズを上手く利用する

上記の「視覚的」という要素の一つですが、まずは見てもらえなければ始まりません。目を引くためにも、大きく(高く)作るなど(昆虫等、大きく作るのが難しい題材もありますが……)、制限範囲内で展示方法等を工夫してみましょう。

展示しやすい安定した形にする

作品は安定して飾れるようにしておきましょう。展示担当者の負担を減らすのはもちろんですが、展示中に倒れてしまうのはどう考えてもマイナスです。のり付けや針金で形を固定したり、台を工夫してみるのもよいでしょう。

以上、思いついたものを書き出してみました。どれも少し考えてみると当たり前の事なのですが、だからこそ有効で押さえておくべき点ではないかと思います。 
なお、上記のポイントは、実はコンテストに限らず作品展示全般でのコツになります。それ以外の展示でも有効なはずなので、コンベンションの一般展示などでも意識してみると良いかもしれません。


最後になりますが、今回の記事は「筆者がコンテストに出すとしたら」という前提で、あくまで個人として分析、解釈したものです。結果的にコンプレックス系の作品を出品する場合についての内容になっていますが、これだけが正解というわけでは無いはずです。
この記事ではJOAS賞・干支部門で作例を考えてみましたが、もし特別テーマ部門へのエントリーを考えるのであれば、おそらくテーマである「重量感」をどのように表現するかが重要なポイントになります。また、コンプレックス系以外のジャンル、例えばユニット作品を出品する場合は全く違うアプローチになるでしょう。新しい切り口からの挑戦は、逆に狙い目かもしれません。
どの部門に応募するにせよ、テーマと状況に合わせて、対策・題材そして作品を良く考えるのが大切なのではないかと思います。

今年も、新たな発想・練り上げられた技術を盛り込んだ新作に出会えることを楽しみにしています。みなさまのご応募をお待ちしております!
ちなみに、完成した作品は、コンベンション当日に参考作品として披露出来るかと思います。お楽しみに。