津田良夫さん逝去

日本折紙学会顧問であり、折り紙作家としても著名な津田良夫氏が、1月30日にご逝去されました。70歳でした。

津田氏は、国立感染研究所に長く勤められた、蚊の研究の権威でもありました。長年、研究活動に追われる傍ら折り紙への情熱も持ち続け、折り紙の世界に関わってこられました。日本折紙学会では、多忙な中で第17期（2006年度）〜第29期（2018年度）（途中休み期間あり）の評議員として活躍され、第25期（2014年度）は評議員代表も務められました。この年にサイト「折り紙アートミュージアム」を開設することができたのは、氏の功績の一つでもあります。評議員の定年である65歳を迎えられた2019年度からは、顧問として同会を支えていただきました。また、日本折紙協会でも常任理事を長く続けられました。

日本折紙学会の機関誌『折紙探偵団』には、数多くの記事と折り図を寄せていただきました。その作風には、生物学者としての観察眼が反映されたものが多く、さすが専門家とうならせるプロポーションの「蚊」、ふわりとした立体感が美しい「白鳥」、デフォルメが効いたユーモラスな「コノハズク」、シンプルな構造ながら仕上がりが美しい「巻貝」、コロっとかわいらしい蛇腹の「ダンゴムシ」、そして、このダンゴムシの応用で生まれた「王蟲」は、写真を見て折り方を知りたいと思った方が、数多くいらっしゃったことでしょう。

特に、「下駄」は名作で、私の一番好きな作品です。1970年代前半の、私が日本折紙協会に入った初期の頃に出会った作品で、無駄がなくかつ的確に描写された完成形に衝撃を受けたものです。あの作品を世に出す一旦を担ったことは、今でも私の誇りです。津田氏の作品は、基本的にシンプルな構造でありながら的確にモチーフを描写し、なおかつ愛嬌があるところが、ご本人の人柄を映し出すかのようでした。

津田氏は蚊の専門書をいくつか執筆されていますが、『創作折り紙をつくる』（大月書店、1985年）は、唯一の折り紙著書となってしまいました。本書は、作例を示しながら折り図の見方、展開図の読み方を示し、応用していくという、初心者のための折り紙の創作方法を本格的に示した、当時としては画期的な本でした。その後も数多くの創作作品がありながら、津田さん個人の作品集が存命中に世に出なかったのは痛恨の極みです。

3年前にがんを患われたとお聞きしましたが、詳しいところまではお伺いせず、その後は悪い噂も聞かなかったことから、回復へ向かっているものと信じておりました。作品集の電子出版をお約束し、本業の傍ら企画を進めていましたが、本当は積極的に体調をお伺いし、もっと急がなければならなかったと深く後悔しています。『折紙探偵団』200号（2023年7月発行）への「胸キュン」折り図掲載の為の事務的なメールのやりとりが、連絡の最後となってしまいました。私よりもずっと若く、これからまだまだ先達者として折り紙界を後方から支援していただけると期待していただけに、残念でなりません。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

2024年2月2日

日本折紙学会副会長　山口真